こだわり住職のよもやま話

2010年6月4日

調整池完成しました

2010年06月04日

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芥川竜之介の短編小説に「蜘蛛の糸・くものいと」という作品があります。大正7年に児童向けの文芸誌で発表されているので、分類上は児童文学作品なのでしょうが、仏教的な示唆に富む内容は大人が読んでも考えさせられます。私も大昔に読んだ記憶があります。ご存じの方も多いことと思いますが、カンダタという罪人とお釈迦様が登場する物語です。カンダタは生前に様々な悪事を重ね地獄に転落していました。それでも彼は一度だけ良いことをしたことがあります。小さな蜘蛛を踏み殺そうとしたのを思いとどまり命を助けたことがあったのです。それを思い出したお釈迦様は、地獄の底のカンダタを極楽へ導こうと極楽の蓮池から一本の蜘蛛の糸をカンダタめがけて下ろしました。極楽から下がる蜘蛛の糸を見たカンダタはそれにつかまって懸命に登り始めました。やがてふと振り返ると彼に続いて多くの罪人が登ろうとしています。これでは重みで糸が切れてしまうかもしれません。それでカンダタは「この蜘蛛の糸は俺のものだ。下りろ、下りろ」と大声でわめき散らしました。するとその瞬間、蜘蛛の糸はカンダタのすぐ上で切れたのです。その様子を見ていたお釈迦様は悲しそうな顔をして蓮池から立ち去られたのでした。

「自分さえ助かればよい」と利己的で無慈悲な行動をとったカンダタは罰を受けたのです。しかし彼の行為を我々は責められるでしょうか?同じ立場になった時、かならずや彼とは違う行動がとれると言えるでしょうか?私には自信がありません。今でこそ山寺の坊さんではありまが、すっかり中年オヤジとなった自分の人生を振り返ると、後悔や反省すべきことは山のようにあります。子供の頃なら素直に受け入れることが出来たかもしれませんが、大人になると実に怖い物語に思えて来ます。

例によって前置きが長くなってしまいました。実は訳あって山寺の空き地に大きなため池(調整池)を造りました。いずれ蓮池にしようかと考えています。それで、つい「蜘蛛の糸」の話になってしまいました。申し訳ありません。本題に入ります。私は山寺に首を突っ込んで以降、境内の整備で様々な土木工事を行って来ました。確かにずいぶん良くなりましたが、一連の土木工事により境内の排水(雨水)をどうにかしないといけないと言う新たな問題も生じて来ました。昨年7月21日に山口県はとんでもない豪雨に見舞われ、防府市では大規模な災害が発生して多くの方が亡くなりました。全国ニュースで大々的に報道されたので良く知られているところですが、山寺がある美祢市も記録的な集中豪雨に見舞われて、その際には背後の山から大変な量の出水がありました。整備前の草ぼうぼうの昔の状態のままであれば、状況は変わっていたのかもしれませんが、背後の大日堂や霊場の参道そして墓地や駐車場等と広範囲に整備を進めていたので、雨が降ると一挙に雨水が流れ出します。それなりに排水対策は行っていましたが、さすがにあそこまでの豪雨となると半端ではありません。排水溝からあふれた雨水が境内に流れ出て大変でした。一番困ったのは激しい豪雨により赤土混じりの泥水が用水路に流れ出て、近所の水田に迷惑をかけてしまった事です。

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山寺の周囲はのどかな田園風景です。ほ場整備が行われて大部分の水田は専用の用水路を供えていますが、なぜか寺の前の水田は旧来の用水路から水を引いています。大昔からあるこの水路に境内の雨水も排出されます。境内や背後の山は土壌が赤土なので、土木工事を行うと雨が降る度に赤土混じりの雨水が流れます。それで「方丈さんよ、寺をきれいにするのは結構じゃが赤土が流れんように考えてくれんにゃー」と、すぐ隣の岩本のおじさん(檀家)に、やんわりいやみを言われる訳です。お金があれば本格的な工事をやってそういうことが起こらないようにすることも可能でしょうが、いかんせん貧乏寺の坊主がにわか土建屋で工事を行うのですから、雨水対策は難しいのです。(それじゃーいけないのですが)それをきっちりやるとなると、とてもお金が掛かるので実に悩ましいのです。それでいろいろ考えた末に思い切って大きな調整池を造成することにしました。

山寺には境内に隣接した休耕田(寺の土地)があります。かなり広いのでここを掘ることにしました。境内の排水をこの池に受けてから水路に落とします。これなら赤土の流出は防げるでしょう。調整池なら私でも工事が可能です。我ながら良いアイデアではないでしょうか。造成工事は借りっぱなしとなっている例のバックホーが大活躍しました。まずは二日かけて大きな池を掘りました。その次は太いパイプで境内の排水を引き込む工事です。完成した調整池はすでに充分な大きさだと思いますが、その気になればもっと大きくすることも簡単に出来ます。いずれ一部は蓮池にするといいなーと思っています。本日一応完成したので後は大雨が降るのを待つだけ(?) の状態です。「よーし、これでもう岩本のおじさんに叱られんで済むぞー」であります。

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