こだわり住職のよもやま話

2010年6月24日

南無あきら菩薩様

2010年06月24日

林道延長工事
今月はじめに境内の排水対策(調整池の造成)がうまく出来たので、調子に乗って梅雨の晴れ間に霊場の森で再び「にわか土建屋」をやっています。今年の春先には登り側に林道が完成しています。それで今度は「下り側へ伸ばしてみようか」って魂胆です。春に造った林道の途中から分岐させてどんどん伸ばして行きました。昨日の午後に遂に下り側の八合目付近(五十二番)へ到達しました。ちようど燃料も乏しくなったので、機械を霊園の所まで降ろし、エンジンを切ってタバコに火をつけようとしたその時、私は重大な事に気づきました。「あれっ携帯が無い。どこかで落としたんだ」さあ大変です。私はすっかり青ざめました。携帯を紛失すると日中の連絡が取れなくなりますから大変困ります。それから、なぜかそういう時に限って急ぎの用件が発生するものです。(それがお葬式だったら最悪である)手帳代わりに法事の予定なども全て携帯に登録してあるので至急探し出さないとマズイことになります。下りの八合目まで林道が到達した達成感なんて一瞬で吹っ飛んでしまいました。あわてて林道を引き返して目を皿のようにして探しましたが発見できません。もしかしたら土に埋もれているのかもしれません。ひょっとすると機械の下敷きになって「もうバラバラになっているのかも?」なんて不吉な思いも浮かんで来ます。「あー今日は最悪だ」私は肩を落として大日堂の広場まで引き返すしかありませんでした。

ふと眼下の駐車場に目をやると軽トラックがちょうど入って来たところでした。「誰だろう?」と思って石段を下って行くと、以前「藤井家の荘厳」の記事で登場して頂いた責任総代の藤井 昭(あきら)さんでした。荷台には自走式の草刈り機があります。寺の休耕田の草を刈りに来て下さったのです。ありがたい事です。実にありがたい事なのですが、私の心はとってもブルーなままでした。

「昭さん、今日僕に電話されました?」「うん、昼から何度かしたけど住職出んからどうしたんやろかと思っとった」「ちゃんと電話かかりました?」「ああ、ずいぶん呼んだけど住職出んかった」「実は携帯を山の中に落としちゃって行方不明なんです。お昼前に一度使ったきりでさっき気づいたんです。昭さん今日は携帯持っておられます?」「あー持ってるよ」昭さんの携帯でさっそく自分の携帯にかけてみました。するとしっかりコールしています。よかった、まだ電話は壊れていません。電波が入る状態でどこかに落ちている様です。これなら呼び出し音を頼りに発見出来る可能性が出てきました。まさに希望の光がさして来た瞬間でした。「携帯ちょっと借りますね。探しに行ってきます」. 私は昭さんの携帯を握りしめて林道を再び登りました。どこで落としたのか解らないのですから見落さないように慎重に進みました。ずっと鳴りっぱなしにするとバッテリーの消耗が心配なので5~6回のコールで確認しながら少しずつ移動です。そのやり方で結局到達したばかりの五十二番の所まで登ったのですがダメでした。電話をかけると確かに呼び出しているのですからどこかに有るはずです。すぐそばでないと聞こえないのかもしれません。バッテリーが切れないうちに発見しないとアウトです。さすがに焦りを感じて来ました。なんだかとても追い詰められた心境ですが、まだ日没には時間があったので落ち着いて可能な限り丁寧な捜索を続けるしかありません。

キズだらけの私の携帯.jpg

待望の呼び出し音に気づいたのは少々弱気になりかけた頃でした。そこは頂上から50㍍位引き返したところでした。聞き覚えのある音がかすかに聞こえるではないですか。耳を澄まして必死で音の出どころを探ると、どうやら林道の谷側に機械で広げた竹や雑木などが混じった土砂の下からです。「土の中で電波が届くんやろか?」と不思議に思いましたが、発信源を慎重に絞り込んで行くとやはり間違いありません。それで狙いをつけた場所をスコップで掘り返すと、なんと見事に出て来ました。愛用の携帯はキズだらけにはなりましたが、アウトドア向けの防水携帯ですから水洗いで見事に生還です。あーよかった。

それにしても昭さんの訪問は絶妙のタイミングでした。ご本人は「携帯を忘れて出かけることが多くてね」ってよく言われてましたが、昨日はしっかり持参でした。おかげで私は行方不明の携帯を発見することが出来た。おまけに自走式の草刈り機で広い休耕田の草を黙々と刈って下さったのですから、ありがたくって後光がさしてました。前回の記事(「藤井家の荘厳」)では奥さんが菩薩さんだったけど、今回は間違いなく昭さんが菩薩さんに見えましたねー。あーありがたや。ありがたや。南無あきら菩薩様。 

▲PAGETOP