日本仏教の主要宗派について

Ⅰ.仏教伝来(大和朝廷時代) 

我が国に仏教を積極的に招来し、定着の基礎を築いたのは聖徳太子であった。政治的混乱の続く日本を、太子は仏教思想を基本とした政治を行うことで統治しようとした。四天王寺・法隆寺・飛鳥寺等の建立が行われ、「和をもって貴しとなす」の言葉で有名な十七条の憲法にも、仏教思想が大きく反映されていた。

Ⅱ.奈良仏教(南都六宗)

奈良仏教は、国家の支配下に置かれた鎮護国家(国をしずめ五穀豊穣の現世利益を願う)の仏教であった。三論宗・成実宗・法相宗・倶舎宗・華厳宗・律宗の 六つで南都六宗と呼ぶ。当時の寺院は現在と違って特定の宗派に属することはなく、一つの寺院で種々の宗派僧が学んでいた。中国より持ち込まれた最先端の知識として、各宗の教理を研究する学問仏教であった。奈良仏教は国家の保護のもと、国家統治の手段として利用され国の支配下におかれた。その最高潮が聖武天皇の時代で、全国に官立の国分寺・国分尼寺が建立され、総国分寺として東大寺が君臨していた。僧侶は国家公務員として仏教の教義研究にあたった。その中心的存在が「南都六宗」であった。

Ⅲ.平安仏教

平安仏教は加持祈祷により貴族社会へ急速に浸透した国家と貴族の仏教であった。日本人によってはじめて開宗された宗派でもある。

①天台宗(伝教大師最澄)

法華経を中心に密教、禅、戒律、を統一融合し、すべての衆生は仏になれると説く。顕教(文字で明らかになった釈迦の教え)と、密教(秘密の教え)の両方を修学するのが特徴。日常勤行は朝お題目(法華経)夕念仏(浄土経)であり、いわば総合大学的な仏教である。鎌倉仏教の開祖(良忍・法然・親鸞・道元・栄西・日蓮)は、いずれも比叡山で天台を学んだ後に立教開宗することになる。天台宗はいわば日本仏教の生みの親といえる。本山は比叡山延暦寺・圓城寺等で主要七派がある。当時の比叡山は現代の東京大学にあたり、国内の秀才が一同に集まる最高学府であった。

②真言宗(弘法大師空海)

人間も本来は仏であるとする真言宗でもっとも重要な教えは、「即身成仏」の教義、すなわち大日如来と一体化して修行を行えば、この身このまま仏になることができるとする。その方法は、諸仏・諸菩薩のはたらきや功徳を象徴した印を結ぶ(身密)、大日如来の教えである真言をとなえる(口密)、大日如来に心を集中させて祈る(意密)という、「三密」を実行することだと説いている。真言宗は総合大学的な天台宗に対して、密教のみを修学する専門大学的性格であった。主要な本山は高野山金剛峯寺・長谷寺・仁和寺・醍醐寺等で主要十三派がある。

Ⅳ.鎌倉新仏教

末法の世の危機意識から生まれ、一般大衆へ広がった衆生救済の仏教。鎌倉仏教の開祖はいずれも天台教学を学んだ後に立教開宗の道を進んでいる。

①浄土信仰の新仏教(仏道実践の手段を念仏に絞り込んだ教え)

●融通念仏宗(良忍)※カッコ内は開祖

一人が称える念仏が、たくさんの人の念仏となり、たくさんの人の念仏が、また一人の念仏に集約されると説く。
総本山大念仏寺(大阪市)

●浄土宗(法然)

「専修念仏」すなわち、ただひたすら阿弥陀仏の誓いを信じ、念仏をとなえることによって極楽浄土に往生できると説く。念仏はあらゆる功徳を修めるものであり、他の諸行に勝るものである。そして、念仏は誰でも実践できる容易な行(易行)である。それは、すべての衆生を救済しようとする弥陀の平等な慈悲心からいって仏の本願にほかならないとする。本山は知恩院・光明寺・禅林寺・誓願寺の四派がある。

●浄土真宗(親鸞)

法然の弟子であった親鸞は、師の「専修念仏」をさらに発展させて、絶対他力の教えを説き、後に浄土真宗の開祖となる。親鸞は、あらゆる自己のはからい「自力」を捨て、阿弥陀仏の本願を信じることによってのみ救われると説いた。弥陀の救済は念仏を称えたからではなく、阿弥陀仏への信心が起きた時点で救われるとする。本山は西本願寺(本願寺派)・東本願寺(大谷派)・専修寺(高田派)・興正寺・仏光寺等で主要十派がある。

●時宗(一遍)

法然の直弟子であった證空(西山上人)の弟子、聖達のもとで浄土教を学ぶ。
信仰があるなしにかかわらず、「南無阿弥陀仏」と名号を称えれば、阿弥陀仏は衆生を往生させてくれるとする。総本山は清浄光寺。

②仏陀への道を禅に求めた新仏教(仏道実践の手段を座禅に絞り込んだ教え)

●臨済宗(栄西)

生まれつき人間に備わっている人間性(仏性)を座禅によって目覚めさせ、人生を豊かに生きていくことを説く。そのために座禅と作務(日々の労働)を重要視する。臨済宗の禅は、師から与えられた難解な公案(課題)に取り組み、悟りに至るように精進する。臨済の難解な公案をたとえて俗に「禅問答」と云う。本山は妙心寺・建長寺・南禅寺・大徳寺・天竜寺等で主要十五派がある。臨済宗は室町時代に幕府の庇護により繁栄した。

●曹洞宗(道元)

即心是仏の教え。ただひたすら座禅に生き、自分の中の仏性を見いだし、この姿こそが仏であると信じること。曹洞宗の禅はひたすら座禅することで、これを只管打坐(しかんたざ)と云う。本山は永平寺・総持寺の両本山体制である。

③浄土・禅を非難し「法華経」こそがすべての新仏教(仏道実践をお題目に絞り込んだ教え)

●日蓮宗(日蓮)

末法の世には「法華経」のみが広がるべきで、よって、法華経を内包する「南無妙法蓮華経」のお題目を称えれば仏と心がつながり、この身が仏になると説く。救われるのは来世ではなく現世でなければならない。また個人ばかりではなく、社会も国家も救済されなければならないとした。
浄土教をはじめ他宗と激しく対立した歴史を持つ。
日蓮宗は排他的な教義上の性格から、内部分裂が激しい宗派であった。現在は四十派あまりがあり、これらを総称して「法華宗」と呼ぶこともある。
創価学会・立正佼正会・霊友会等は近代に派生した日蓮系の在家集団である。

Ⅴ.現在の日本仏教(主要十三宗)

奈良仏教・・・法相宗・華厳宗・律宗

平安仏教・・・天台宗・真言宗

鎌倉仏教・・・融通念仏宗・浄土宗・浄土真宗・時宗・臨済宗・曹洞宗・日蓮宗

江戸時代・・・黄檗宗(中国より隠元禅師が渡日し万福寺を創建して開いた中国臨済禅の一派)

Ⅵ.日本浄土教の系図

法然上人の直弟子で、後に彼らが流祖となり後世に残った浄土教の宗派は、證空(西山上人)の西山義(今日の浄土宗西山三派)、弁長の鎮西義(今日の浄土宗)、そして親鸞の一向義(今日の真宗十派)である。また證空の孫弟子であった一遍が開いた一派が現在の時宗である。これらは全て法然上人を源流とする浄土教(浄土門)の宗派である。

●法然上人の主要な弟子とその流れ

證空(西山義)の門弟の流れは浄土宗西山三派と一遍の時宗になった。弁長(鎮西義)の門弟の流れは浄土宗となり、親鸞(一向義)の門弟の流れは浄土真宗十派となっている。

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