こだわり住職のよもやま話

2011年11月

映像だから伝わること

2011年11月25日

祈り.jpg

お釈迦様が「人生は苦なり」と喝破されたように、この世は苦しみに満ちた世界です。でも、嬉しいことや楽しいことだって、少なからずあるのが人生です。今、とても不幸だと思える状況だったとしても、それが永遠に続くわけではありません。この世は諸行無常なのですから、どんなに辛いことや苦しいことだって、いつかは終わりが来ます。だからこそ、「今頂いている命を大切にして、精一杯生き抜こうではありませんか」と語り続けることが、仏教者の使命です。そして、苦に満ちたこの世界に「希望の光」を灯し続けることが、僧呂である私にとって、大切なお役目なのだと自覚しています。しかし、私自身も煩悩にまみれ苦脳し続けている愚かな人間です。「そんな立派なこと、よう出来ません」の思いが、常について回ります。ましてや、親鸞聖人の人生を知れば知るほど、「あの方だって生涯苦しんでいたのだから、私が煩悩にまみれて、四苦八苦しているのは当たり前でしょう」などと、開き直るのであります。レベルが違い過ぎるから、引き合いに出すのは大変失礼な話しです。でも、そう考えると肩の荷が下りたような気がして、救われた気分になれるのは事実です。

冒頭からめずらしく真面目なことを書いております。きっと、東日本大震災の被災地で青空説法をされる、瀬戸内寂聴さんの番組(NHK)を見たせいです。被災者のみなさんに思いを寄せながら書き出したら、なんだか意味不明の独り言になりました(いつもそうだって声が聞こえる)。寂聴さんの説法が素晴らしいのは当然ですが、それに聞き入る人々の姿に、心を揺さぶられました。どうしようもない喪失感と、一生忘れられない深い悲しみを必死で受け止めている人々の姿にです。涙を流しながら説法に耳を傾けている人々を見ていると、「自分も頑張らないと申し訳ないな」の思いが込み上げてきます。そして、「私も私なりに出来ることをしなくちゃ」と、誓わずにはいられません。映像の力を意識させる良い番組でした。

今年で見納めです

2011年11月04日

平成23年11月4日の山寺.jpg

本堂前の大銀杏がいよいよ色づき始めました。私が一番好きな季節の到来です。毎年限られた期間だけですが、鮮やかな黄色と少々赤茶けて古びた本堂の大屋根、そして燃え始めたモミジの組み合わせが、結構絵になる景観を見せてくれます。平生は訪れる人も限られる実に静かな田舎寺ですが、来週あたりからは、カメラを片手にこの山寺を訪れる人々の姿を目にすることになるでしょう。

ところで、この本堂は来年のお盆明けから建て替え工事に入る予定になっています。ですから、この景観はいわば今年が見納めとなります。「最後の秋なんだから、ちゃんと記録に残しておかなくちゃ」と思う今日この頃です。

現在の本堂が建てられたのは約240年前の傳空順阿上人祖吟大和尚の代です。驚くことに、ほぼ建築当時の姿で今日を迎えています。障子と雨戸だった外周はさすがにガラス戸となり、茅葺きの屋根にはトタンが覆われていますが、それ以外は昔のまんまです。国宝や重要文化財でしたら、それなりに補修を続けて維持管理をしますから納得です。しかし、調べて見るとこの寺は補修がほとんど行われておらず、純粋に240年前の構造物でした。日本建築の耐久性には改めて驚かされます。普通ならとっくの昔に建て替えられている建物でしょう。田舎の小寺でここまで古い状態で残っているのは珍しいと思います。境内に残る石垣や大日堂広場へ登る石段、そして古い灯籠など、今残っている主要な遺物も軒並み傳空さんの時代に整備されたものです。何の因果か私の代で建て替えることになりました。嬉しいような哀しいような実に複雑な心境です(失言ですね)。それというのも、多くの人々はこの山寺を訪れると必ずこう言われます。「この建物を後代に残したいものですね」であります。確かにおっしゃる通りです。見方によっては貴重な建物です。私も出来ることならそうしたかった。国宝級の建物で行われるような、大がかりな解体修理を行えばそれも可能でしょう。しかしそれにはとてつもない資金が必要です。理想と現実には大きなギャップがありました。それでも、すでに限界に近い本堂の建て替えがなんとか実現する運びとなったことには、素直に喜びたいと思います。新しい本堂はずいぶん質素な建物にはなりますが、近年存亡の危機さえあったことを思えば誠にありがたいことです。光明寺を次の世代に残すことが出来るのですから。 

山寺は野生の王国です

2011年11月02日

イノシシが掘り返した芝生.jpg

昨年もそうでしたが、今年は一段と派手でした。わずか一晩で、本堂前の芝生を手始めに、あちらこちらに畑が出現しました。近年すっかりおなじみになったイノシシ達のご乱行です。彼らは日が暮れると背後の草場山から降りてきて、ごらんの通りのやりたい放題です。別に飼っているわけじゃないのですが、どうやら山寺の境内がすこぶるお気に入りのようです。今年は秋の実りが超不作でした。地元のブランド品である厚保クリも、過去に例が無いほど収穫量が落ち込みました。おそらく、その影響を相当受けると思われる彼らにとって、エサ不足は深刻です。それで、夜な夜なミミズや昆虫を求めて境内のあらゆるところを片っ端から掘り返すのでしょう。エサを置いとけば被害を防げるかかもしれません。でも、そんなことをしたらほとんどペットになってしまいますし、たぶん事態はますます悪化するでしょう。ずっと見張っているわけにもゆきませんから困ったことです。

まったくもって迷惑な連中ですが、もともと山寺は野生の王国ですから、この状態も致し方ありません。本堂の屋根裏には昔からコウモリが住んでいて、お供えの果物や生花(菊の花びらが好物)が度々被害に遭います。イタチ科のテンが、天井裏でごそごそ音を立てることもしょっちゅうですし、境内の石垣にある隙間にはヘビが沢山住み着いています(アオダイショウです)。今春には近年すっかりめずらしくなったキツネ(子キツネ、しかも複数)の姿も見かけました。タヌキは毎度おなじみですし、シカやサルも最近はよく出没します。野生動物をこれほど間近で観察できるのですから、ここは寺というよりも、ほとんど動物園に近いかもしれませんね。

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