こだわり住職のよもやま話

西山の木魚とカイシャクは曲芸です

2010年02月28日

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多くの宗派では経典の読誦の際に木魚を使います。西山浄土宗もそうですが、これが少々変わっています。阿弥陀経をへんてこな発音で読誦する話を(1/19西山の阿弥陀経は魔球かも)既に書きましたが、私にしてみれば木魚の叩き方も変わってます。西山は間打ち(まうち)と呼ばれる独特のタイミングで叩くのです。普通の打ち方は発声と同時に叩きます。「いち・にい・さん・し・・・」と口に出しながら、右手でその声に合わせてテーブルを叩いてみて下さい。これが普通の木魚の叩き方です。この叩き方であれば、かなり早いタイミングでも正確に出来るはずです。我々は「頭打ち」と呼びます。ところが西山は読経の発声の間に打ちなさいといいます。試しに「いち・にい・さん・し・・・」と60まで口に出して、その数えている声と声の間に右手でテーブルを正確に叩くようにしてみて下さい。制限時間は30秒です。このスピードで最後まできちんと出来た人は素晴らしい。すぐに西山流の木魚が叩けるかもしれません。普通はずいぶん難しいはずです。最初は出来ていても、いつの間にか自分が数えている声と右手が同じタイミングになってしまいます。要するに普通のたたき方(頭打ち)です。そうなったら西山の坊さんとしては修行不足です。(こんなこと書くと、自分で自分の首を絞めることになるなー)阿弥陀経の例を上げると。如○是○我○聞○一○時○佛○在○舎○衛○國・・・です。○が木魚を叩くタイミングです。でも、ドラムを叩ける人なら出来るかもしれません。西山がやっている間打ちは、いわばドラムを叩く時などに多用される裏打ちによく似ています。

なぜこんな難しいことをするかというと、要するに「格好をつけているからなんです」なんてのは嘘ですが、実はお経を読誦する声と同じタイミングで木魚を叩くと、声が消されてしまうからだそうです。いわれてみたら「なるほどねー」です。確かに正しい考え方です。でも言うは易しするは難しです。私も苦労しました。前記の制限時間が60秒なら出来るでしょう。でも西山はこの間打ちをテンポよく叩いて阿弥陀経などを早読みしなければなりません。そのあたりの事情は(1/19西山の阿弥陀経は魔球かも)で書いた通りです。こうなるとかなり熟練しないと無理です。早くなればなるほど難しくなって、発音と木魚の音が重なる普通の打ち方になりがちです。一度そうなると元に戻すのは難しくて冷や汗をかきます。読経中の木魚はあくまでも一定のテンポで叩き続けるのが本来原則です。それで声を出すタイミングを微妙にずらして修正するのですが、自分で発声しながら叩いているとこれが難しいのです。 私も未だにあまり早くすると頭打ちになるので要注意です。西山のへんてこな木魚(間打ち)は、どんどん早くして行くとやがて間打ちと頭打ちの区別がつかなくなります。だから木魚での読経にはスピードの限界があります。それで木魚をひとつ飛ばしやふたつ飛ばしで叩かれる方もおられます。そうすれば早読みが出来るからです。

通常西山ではお経を早く読誦するために、木魚のかわりにカイシャク(音木ともいう)という鳴り物を使用します。時代劇で「火の用心、カチカチ」とやっている木製のあの道具です。紫檀や黒檀などの堅い木材で作った一組の短い角材、ようするに拍子木です。これをリズミカルに叩きながらお経を読誦します。本山の朝のおつとめでは毎回途中でこのカイシャクによる早読みがあります。私は加行を受ける前年から本山の検定講習会に参加していたのですが、その際には毎朝本堂のおつとめに出席することになり、ここで本山式の早読みを経験しました。お経本を凝視して必死について行こうとするのですが、当初はどこを読んでいるのか解らなることが度々でした。その異常な(?)早さに発声が間に合いません。今思えばまだ大して修行もしていませんので当然でした。お経を暗記していないので、経本のふりがなを見ながらの発声ですが、まったく話になりませんでした。自分の力の無さを思い知らされた苦い思い出です。この拍子木(カイシャク)のリズミカルな叩き方を、我々は通称「曲打ち」と言います。要するに曲芸打ちです。一定に叩くやり方もありますが、それでは少々おもしろくありません。リズム感が出ないからです。だから腕に自信のあるお坊さんは曲打ちといわれる特殊な(格好いい?)打ち方をします。しかし、これが大変難しいのです。個人的には木魚以上に難しいと申し上げておきます。

本山を訪ねて先亡のご供養などを(これを回向という)お願いすると、ご家庭での法事と同じようにお経一式が読誦して頂けます。読経の終わりが近づくと施主の焼香となります。その際には、カイシャクが叩かれて焼香用のお経が読誦されます。広い御影堂でカーンカーンと乾いた音が響きます。大法要となるとカイシャクを叩く人はソロ奏者ですから、ある意味大変名誉なことです。ずらりとお坊さんが並んでいる中、少々目立つ位置に出てきて立ったまま美しい姿勢で叩きます。当然選ばれたお上手な方が叩くのですから、御影堂に響き渡るその音は参拝の皆さんに強い印象を残します。私もこの猿まねがしたくて練習しました。難しかったなー。法事などで般若心経を読む時と焼香の読経で、この曲打ちをするようになって2年あまりですが、まだまだ修行は足りてません。それにしても西山の坊さんがやってることは敷居が高い。私にとってはいずれも3,000メートル級の冬山です。何度遭難しかけたことでしょう。

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