こだわり住職のよもやま話

唐木仏壇をなめちゃいけません

2010年01月26日

地元美祢市は本願寺派のほぼ占領地です。さらに言えば山口県そのものが真宗王国です。新山口駅のすぐそばには、山口別院といういわば西本願寺の出先機関でもある特別寺院があります。そしてその山口別院が単独スポンサーのラジオ番組が、地元のFM局からは流れて来ます。長州はそういう土地柄ですから、仏壇といえば本願寺派の荘厳が圧倒的です。真宗の仏壇はピカピカの金仏壇です。私の実家も本願寺派ですから、幼少よりピカピカ仏壇を目にして来ました。近所の家も友達の家もみんなこの仏壇です。子供の頃は仏壇というものはみんなピカピカなのだと思っていました。ところが世の中にはこれとは対象的な、紫檀や黒檀などで制作されたシックな仏壇があります。一般的に唐木仏壇と呼ばれます。金仏壇は基本的に真宗向けで、その他の宗派では唐木仏壇が一般的(らしい)です。日本の仏教宗派全体を考えてみると、むしろこちらの仏壇が主流の可能性があることに、坊さんになってようやく気づきました。

山寺の檀家さん宅へ行くと仏壇は唐木です。荘厳の様式も違います。西山の坊さんになった以上「唐木仏壇の知識が必要だな」と思い始めました。それで私は仏壇店の偵察を開始しました。しかしこと山口においては、仏壇といえば金仏壇です。展示場をのぞくと並べてあるのはピカピカ仏壇が主力です。唐木仏壇は?となると、展示場の隅っこに申し訳程度に置かれていることが多かった。あっても小さなサイズで田舎向けのそれなりの大きさになると数が限られました。

余談ですが、すばらしい金仏壇を確実に沢山見たいなら、名古屋市内の仏壇街(仏壇店が異常に密集)に行けば楽勝です。いずれの店舗も店の看板商品となるすごいのが、目立つところにドカンと据えてあるので、それらのはしごをするとお手軽にまとめて拝見出来ます。目の保養にもなりますよ。

さて、山口での話にもどします。唐木を見たくて探してみたのですが、まとめて拝見できる店が見つかりません。ところが「灯台もと暗し」とでも言いましょうか。実は美祢市のお隣、旧豊田町(現在は下関市に合併)に、唐木仏壇をどっさり持っている仏壇屋があったのです。それが下関市豊田町殿敷(西市)にある住谷仏壇店(本店)です。例の(12/30記事)千々松菩薩のお店です。初めて偵察に行ったときは全く期待していませんでした。その店は西市の古い町並みの中にありました。油断すると見落としそうです。(でも昔は繁華街だったのかも?)住谷は長府や長門そして菊川にも店舗があり、西市が本店なのですが、その本店の事務所兼店舗は意外にこぢんまりとしています。対応して下さったお店の方はとても感じが良かった。坊さんであることは内緒にして「唐木仏壇を見たいのですが?」と告げると、金仏壇が展示してある建屋とは別の、少々古めかしい展示場の大きな扉を開け放って自由に見学させて下さいました。よくあるのは店員さんが張り付いて商品をしきりに勧めて来る事です。しかしそれはありませんでした。(いかにも金もってなさそうに見えたのかな?それとも忙しかったのかな?)その倉庫(あえて展示場とは書きません)はお世辞にもこぎれいな場所ではありません。ただし、やけにだだっ広く天井は高くて形も変わっています。実は映画館だった建物でした。

唐木の仏壇は金仏壇と異なり表面を漆などで着色塗装しません。素材そのものの質感や木目の美しさと彫刻で勝負する、仏さま専用の高級家具みたいなものです。ですから、材料である木材の品質と彫刻の緻密さがもろ販売価格に反映されます。同じ大きさでも価格にけっこう開きが出ます。それと、金仏壇は表面の金泊が経年劣化しやすく、指紋をつけるとそこからすぐ痛むので要注意ですが、唐木は経年変化が起こりにくいので、長期在庫になっても品質低下のリスクが低いという特徴(利点か?)があります。だから主流じゃないのに、あんなに大量のストックをかかえていても大丈夫なのかもしれませんね。まるで家具屋の倉庫みたいです。そうはいってもこれだけ持ってたらすごい金額ですよ。真宗王国の仏壇屋ですから当然金仏壇も豊富に持っています。あの店舗兼事務所の慎ましさ(?)に対して、実にアンバランスに感じました。後から聞いた話ですが、住谷仏壇店は元々は仏壇を自前で制作していた製造直売の店だったそうです。そして昔は仏壇の卸元でもあったのです。そういう歴史があるので唐木でも大量に持つのが社風なのかもしれませんね。

私は店員さんが張り付かないことをこれ幸いに、遠慮なく実に丁寧に(しつこく?)見させてもらいました。その展示場という名の実質倉庫で我々素人がまず注目するのは価格ですね。ずらりと並んだ仏壇を見比べると、材料や彫刻で価格が変わるのが良く解ります。「なるほどねー」と大変勉強になりました。絶対数があるので材料により様々な印象の仏壇があることもしっかり確認できました。これくらいまとめて並んでいるととても得した気分です。展示数が最も多いのは黒檀か紫檀を使用したものです。シックで高級感があり唐木仏壇の定番です。欅(けやき)は癖のない素材感が身上ですね。実に落ち着いた印象です。鉄刀木(たがやさん)やシャム柿(黒柿)はハッキリした木目が目を引きます。カリン材の仏壇もありました。桑の木の仏壇は枯れた感じが絶妙で、緻密な木目が非常に上品でした。木魚の材料としても桑の木は最高の木です。いい音で鳴りますからね。

さて、そんな数ある仏壇の中でも私の目が釘付けになった仏壇が一本ありました。大きな仏壇ではありません。半間仏間用のお手頃なサイズです。実にさりげなく置かれていたのですが、他とは明らかに異なる独特の雰囲気を醸し出していました。落ち着いた色調の仏壇が多い中にあって、木肌が明るい色なので一見シンプルで軽やかに感じます。しかしよく見ると非常に上品でむしろ重厚感があるのです。細目の木目も見事です。矛盾していますが一見あっさりしてるようで実はしっかり目立ちます。そんな不思議な仏壇でした。「これはいい仏壇だナー」とすぐに惹かれました。それで眼鏡を掛け替えて(老眼が来てるので近くが見づらい)さらに細部をじっくり観察しました。仏壇の中に頭を突っ込んでしっかり観察です。(店員さんがいたら出来ないことです)間近で凝視すると彫刻も素晴らしく緻密です。ますます「これはいいわー」と、買うわけでもないのにすっかりお気に入りです。ただしよく見たらお値段も素晴らしかった。七桁なのは当然ですが頭の数字が1じゃないんですよね。隣に並んでる仏壇が複数買えちゃえます。

屋久杉の仏壇結局この仏壇が数ある唐木の中でも最高価格の一品でした。仏壇の端っこに置いてあった説明書を見ると、使用されている材は屋久杉と書かれています。「おー、これが屋久杉ですかー」と驚きましたね。まれにあるとは聞いていたのですが、初めて現物を目にしたのです。今や入手困難で幻になりつつある木材。日本が世界に誇る銘木中の銘木です。私は「違いのわかる男」ですから、たちまち目が釘付けになるはずです。(笑っていいですよ)さすがにあの価格でも納得です。恐れ入りました。(市場には屋久杉と称するものが時々出回るのですが、屋久杉とは屋久島で産出された樹齢千年以上の杉のことで、千年に満たないのは屋久島では小杉というらしい)

後に聞いた話ですが、住谷にはこの屋久杉の仏壇が数年前には複数あったそうです。他の仏壇店でここにあることを聞きつけて、遠方からわさわざ見に来られたお客さんがお買い上げになったそうです。残る一台は貴重品ですね。まだあるとのことなので、売れる前にもう少し拝ませてもらっとかないと後悔しそうです。(次が入るかどうか解らんので)山口は金仏壇が主力なので、唐木のすごいやつにお目にかかることは極めてまれです。運が良かった。それにしても屋久杉のあの独特の雰囲気、不思議な存在感はいつまでも印象に残ります。唐木仏壇をなめちゃーいけませんね。(厳密にいうと屋久杉は唐木ではないから、銘木仏壇というのが正しいでしょうけど)

▲PAGETOP