こだわり住職のよもやま話

西山の阿弥陀経は魔球かも

2010年01月19日

私は法事に呼ばれると、たいてい本山で行われる御忌会(法然上人の法事)に準じたお経を読誦します。御忌会では「歎徳之疏:たんどくのしょ」が読まれるので、これに相当する疏も読みます。(先亡に対する哀悼の意を表する文書です)木魚を叩きながら読むメインの仏典は「仏説阿弥陀経」です。お経は音読みですが、音読みには漢音や呉音、唐音などがあり、同じ熟語でも複数の読み方が可能です。例えば食堂は「じきどう」とも読むわけです。通常、西山浄土宗の坊さんは、仏説阿弥陀経を少々変わった発音で読みます。仏説阿弥陀経は普通「ぶっせつあみだきょう」ですが、我々は「フ・セイ・ア・ビ・ダ・ケイ」と発音します。確かに分厚い漢和辞典で調べてみると、そう読めないこともない。もう一つ例を上げておきます。阿弥陀経は極楽世界のことを語るお経なので「極楽国土」という言葉が何度も出てきます。これも「ごく・らく・こく・ど」ではなく「キー・ラク・ケキ・ト」と発音します。おしなべてこんな調子ですから、初めて聴かせて頂いたときは、真宗のあの「阿弥陀経」とまったく同じお経であるとは思えませんでした。

 浄土真宗では、法事の際にお経をみんなで一緒にゆっくり読むスタイルが多いのですが、この変わった読み方で「一緒に読みましょうか」というわけにも行きません。それで西山では木魚をテンポ良く叩いて、やや早読みの読経を聴いて頂くのが普通です。阿弥陀経が早読みされる理由はもう一つあります。我々西山派(西山浄土宗・浄土宗西山禅林寺派・浄土宗西山深草派)そして浄土宗(知恩院)の法要では、根本経典である三部経(無量寿経・観無量寿経・阿弥陀経)とは別に「往生礼賛偈」というお経も重視されます。往生礼賛偈は哀愁に満ちた実に美しい旋律のお経です。(厳密にはお経ではなく詩偈で、時間帯に応じて6種類あります)それで、阿弥陀経も大切だけど、こちらの歌みたいなお経(声明の一種)もやらなくちゃいけないのです。次があるので阿弥陀経だけに時間を使ってられません。急ぎます。だからみんなで阿弥陀経をゆったり読むスタイルは取りにくいのです。

浄土宗西山派や浄土宗(知恩院)が往生礼賛偈を重視する理由を説明すると、教団の歴史を語る事になります。長くなるので別の機会にしますが、とにかく我々の法要では、この歌みたいなお経が肝であり、いわば一番の聴かせどころです。ですから末寺の坊さんも法事の際には少々気合いを入れて読誦したいお経、ぜひ聴かせたいお経だといえます。ただし相当練習しないと人様に聴いて頂けるレベルに達しない、いわば鬼門のお経でもあります。単調なお経がとりわけ苦手な私は、鬼門のお経とはいえこちらの方がだんぜん好きです。これを歌う(読誦する)ために、前半の阿弥陀経をじっと我慢して木魚を叩いているようなものです。礼賛偈になると旋律のあるお経をゆったりとしたテンポで歌います。一節一節で適度な間が入ります。これが大変ありがたいのです。私にとっては休める(?)ので、長時間の読誦も苦痛ではなくなります。木魚は叩かなくて良いのでこれまた好都合です。後ろで聴かれているみなさんも、前半の単調なお経よりは変化があって耳を傾けやすいはずです。読経の腕次第では聴衆者に感動を与えて信心を深めて頂くことも可能です。歌ってる当人も心地良いものです。礼賛偈とは正にみんなを幸せにしてくれるありがたいお経です。

仏説阿弥陀経.jpg

さて、変な発音(?)で読む西山の阿弥陀経ですが、その利点(弱点でもある)を指摘しておきます。一般的ではない発音なのですから慣れるまでは大変でした。しかし、そこそこ早読みも出来るようになって常用しはじめると、非常に都合が良いことを実感します。それは私にとっての都合です。西山の読み方は聴いてる人にはほとんど日本語じゃない(?)のだから、読み間違えても決してバレないのです。(笑わないで)まるで絶対打てない星飛雄馬の魔球です。(アニメ巨人の星、若い人は知らないだろうな)私など修行がまだまだ足らないので、未だにこの魔球の威力に頼りっぱなしです。連日連夜、魔球の連投です。ストレート(普通の読み方)を投げたら一発で痛打を浴びる(読み間違いがバレる)に違いありません。しかし飛雄馬が魔球の連投で肩を壊してしまったように、「たよりすぎると危険だなー」と思うのも事実です。

今年はおばあちゃんの二十五回忌が来ます。もしかしたら実家の菩提寺の住職は、吉村家の一員として参列している私に「衣を着用されて阿弥陀経を一緒に読誦されませんか?」と、提案されるかもしれません。確かに真宗と共通のお経なのだから、おばあちゃんの為にも菩提寺の住職と並んできちんと読経するべきかも。しかし私は真宗流の普通の読み方をほとんどやっていないので人前では無理です。常用しているのは西山のいわば「魔球読み」です。そんなこと言われると困るんですよねー。(西山の坊さんは、最終的に西山の読み方と一般的な読み方の両方に熟練するのが理想なのです)

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