こだわり住職のよもやま話

人それぞれの心象風景

2011年02月26日

冬構え.jpg

先日、山寺を時々訪れては写真を撮られている方から一枚の作品を頂きました。その御仁は山陽小野田市住吉にお住まいの中務英成さんです。今秋には八十三才になられるとのことで、中務さんは作品を手にこう切り出されました。「私は長年こちらのお寺の写真を撮らさせて頂いておりますが、昨秋に撮影した一枚がとても気に入っています。ご迷惑かもしれませんが、ご住職にぜひ見て頂きたくて持参しました」。作品のタイトルは「冬構え」となっておりました。山寺の本堂前を切り取ったその写真は「自分の今の心境そのものです」とおっしゃられた。画面の右下には実は一体の小さな石仏があります。すぐ目の前には西日に照らされた銀杏の影が横切っており、その向こうには観音菩薩様がおられます。「西日が作り出した影が私には三途の川に見えました。手前の小さな石仏が此岸に生きる今の自分です。私の人生も残りわずかとなりましたが、三途の川の前でたたずむ石仏に己の心のありようを重ねてみたのです...」と淡々と話されたのです。

実に印象深い言葉でした。なるほど大銀杏の長い影はまさに三途の川です。手前は我々が生きる娑婆世界(此岸)であり、その影の向こうに目をやると、まさに仏がおられる彼岸ではありませんか。深遠な仏教観が見事に込められております。私にとっては見慣れた風景でしたが、その方の深い思索につくづく感銘を受けた次第です。

▲PAGETOP