こだわり住職のよもやま話

楠はありがたい木です

2010年03月07日

大日堂広場の大クス.jpg

山寺の大日堂広場の隅には大きな楠(くすのき)があります。楠は仏教にとって太古より重要な木でした。仏像を制作する際の材料として適していたからです。その幹・根・葉を蒸留すると防虫材の原料である樟脳(しょうのう)を抽出することが出来ます。だから虫食いになりにくく耐久性が抜群です。大木になるので昔から神仏が宿る神聖な木とも考えられてきました。ですからその木を仏像にすることは意義あることなのです。山寺光明寺の大日堂に鎮座している大日如来像も楠で彫られたものです。だから今日まで虫食いになることもなく残れたのでしょう。「昔の人は利口だったなー」と思います。何百年も先のことを考えて仕事をしています。楠はつくづくありがたい木だと思います。

さてその楠ですが、木魚の材料としても多用されています。ただし木魚の場合は桑の木で作ったものが最高だといわれて来ました。本桑の良材で作られた木魚は乾いた感じで実にキレのいい音で鳴るからです。堅さとねばりのバランスが絶妙で、緻密で美しい木目は高級仏壇の材料としても重用されています。しかし良材の入手が困難になった今日、非常に高価になりました。そもそも楠のように大木にはならないですから大型の木魚を作ることは出来ません。普通はせいぜい巾30㎝位までですが、その大きさでもびっくりするようなお値段になります。300万円位は覚悟しないと調達できないでしょう。よほど財政状態の良好なお寺か、特別な寄贈とかでもない限り備えることは難しい高価な仏具です。山寺にも桑の木魚が一応あります。一般家庭用の小型のものですが、これでも今購入しようとすれば10万出しても無理でしょう。小さくてもさすがに本桑です。実に良い音で鳴ります。しかしこんな良い音を知ってしまうと普通の木魚の音が不足に感じられそうです。へたをすると求不得苦状態になりかねません。ある意味とても危険な木魚だと思います。

本桑の木魚は確かに良い音で鳴るのですが、前記のとおり今日では高価すぎてお話になりません。それで木魚は楠で作られたものが普通です。楠も選ばれた良材だとかなりいい音で鳴ります。大木になるので本堂などに据える大型の木魚を制作することも可能です。我が宗派の本山、長岡京市粟生にある総本山光明寺の御影堂(本山では本堂を御影堂と呼ぶ)には、大きな木魚があります。確認していないのですが、この木魚も楠かもしれません。加行の際には私もこの木魚を叩きました。叩くための道具(バイと呼ぶ)も木魚の大きさに比例して大きく立派なので、読経の際に叩き続けるのは腕が疲れて大変でした。普段その木魚を叩いている本山の随身生(住み込み修業中の若い僧侶)は、この重いバイで木魚をいかに早く叩くかに心血を注ぎます。常日頃から上腕筋のトレーニングに励むのが伝統です。本山の浴室にはその為のバーベルが転がっているのですが、初めて目にしたときは随分驚いたものです。本山は僧兵の養成でもやってるのかと思いましたね。(笑って下さい)

ところで、御影堂の木魚はずいぶん大きいのですが、本山にはさらに大きなものがあります。御影堂の隣にある阿弥陀堂には、我が宗門の先徳(宗門の住職)が寄贈された素晴らしい木魚が保管されています。ここまで大きいと読経の際にバンバン叩くのは難しいかもしれません。もしもこの木魚が法要で使用されることになったら、叩く人は大変なことになるでしょうね。

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