○お釈迦さまの夢を忘れた上座部の僧侶たち
お釈迦さまは川を渡る専門家たちに「出家せよ」と説きました。なぜなら川を渡るには、よけいなものを付けていては泳げないからです。服を着たり財産などをぶら下げたままでは広い川を渡るのは無理です。妻子も捨てて「裸になりなさい」と教えました。やがて、出家した者が渡りきったあとには、必ずすべての人々が救われる橋がかかります。お釈迦さまは、のちに人々を導く役目をこの出家僧たちに託したのです。ところが、お釈迦さまの没後、長い年月が経過すると、出家僧たちは自分たちが川を渡りきったときに、お釈迦さまのこの夢を忘れてしまうようになりました。自分たちが到達できれば、もうそれでよいと思うようになったのです。
○上座部仏教における此岸は「苦」に満ちた世界
お釈迦さまは、此岸にすむ私たちは真の意味での幸せはない、幸せにはなれないといいました。その理由を、上座部仏教では此岸が苦に満ちているからだと考えました。その苦とは「生・老・病・死」の四苦と、「愛別離苦」「怨憎会苦(おんぞうえく)」「求不得苦(ぐふとくく)」「五蘊盛苦(ごうんじょうく)」という四つの基本的な苦が私たちを悩まし苦しめているからだとしました。「愛別離苦」とは、愛する人と別れる苦しみです。「怨憎会苦」は、恨みや憎しみを観じる相手と出逢う苦しみです。「求不得苦」とは、物質的な欲望が満たされない苦です。「五蘊盛苦(ごうんじょうく)」の「五蘊」とは、肉体と精神を5つの集まりに分けたもので、精神的、肉体的にさまざまなものに執着することで生じる苦です。これが、よくいわれる「四苦八苦」です。