こだわり住職のよもやま話

大日如来像のルーツを訪ねて

2012年04月21日

先月、村田義信さんのご案内で旧光明寺御本尊のルーツとされている場所をたずねました。本日はその時のことを書いてみます。山寺は信長の時代に浄土教寺院として復活を果たした歴史がありますが、もともとは長い歴史を持つ真言寺院でした。真言時代の光明寺が御本尊としていた仏さまは、村内の違う場所から移転してきた大日如来座像です。伝承によると、その如来像が最初に安置してあった場所は大日ケ浴と呼ばれる場所で、大昔から真言伽藍が栄えていた場所でした。行基菩薩由来とされるその如来は中心的なお堂に鎮座していたのですが、やがてこの伽藍群が荒廃したので、光明寺に移されて今日を迎えています。

ところで、私は旧光明寺(真言時代)の御本尊(大日如来)が最初に安置されていたという、大日ケ浴の現地調査をしたことはありませんでした。なぜなら場所を特定する情報が乏しくて、いきなり深い山中に入っていくには無理があったからです。今日、大日ケ浴という地名を耳にする事はありません。地元の古老のみが知る、いわば「だいたいこの辺り」の情報しか残っていません。しかし機会があればいつかはきちんと調べてみたいと思っていました。今回ご案内下さった村田さんは2代前の責任総代さんです。村田さんによると最初に大日如来があったとされる「大日ケ浴」の地名は地元旧家の古地図や土地台帳に残っているそうです。村田さん自身も近所の古老から伝え聞いた記憶があり、以前から調査してみたいと思われていたそうです。これらの情報を手かがりに独自に山中を訪ね歩いてみた結果、ほぼ間違いないと思われる場所が最近特定できたと伺っていました。それで「ぜひ連れて行って下さい」という話しになっていたのです。

大日ケ浴の前を流れる原川.jpg

その日は朝から良い天気でした。村田さんから「今日いってみようか?」と連絡があったので早速ご自宅を訪ねました。到着するなり我々は軽トラに乗り換えて、原川に平行して延びる細い道を進みました。途中で軽トラを乗り捨て、その先からは大日ケ浴の谷間を登って行きます。その谷には小さな沢が流れていました。水量はわずかですが、この小さな沢こそ大昔の伽藍跡をたずねる重要な手がかりでした。太古から真言伽藍などがあったとされる場所には、必ず何がしかの水源があるものです。俗世を離れて山中のお堂で修行するにしても水が無いと長期間の滞在は難しくなります。だから古い寺院跡の近くには必ず湧き水や沢などがあるものです。現光明寺も大昔から真言伽藍があった場所ですから背後の草場山を水源とする湧き水があります。

大日ケ浴の沢.jpg

我々はその沢に沿ってひたすら登って行きました。崩れやすい急斜面や倒木に何度も行く手を阻まれ、そのたびに迂回しながらのハードな道中でしたから、大汗をかくことになりました。頂上のすぐ近くまで登ると目当ての場所が突然出現しました。写真では解りにくいですが、村田さんの足元は2㍍位の法面になっています。周囲はまだ斜面に囲まれているのですが、奥に向かって段々畑の跡のような敷地が複数ありました。明らかに人の手が加えられていたと思われる場所です。なるほど、この地形ならば大昔に真言伽藍が建っていたり、あるいはこの地で修行していた僧侶の耕作地跡の可能性が高いと思われます。それにしても、よくここを発見されたものであります。

大昔の耕作地跡.jpg

さて、そうなると、次は大日如来が鎮座していたお堂の場所の捜索です。伝承では大日ケ浴の荒廃したお堂に残されていた大日如来の額から草場山の麓に一筋の光明が放たれたので、これを見た里人は如来のお告げであると感じ、光明が指し示した場所にあった真言伽藍(現光明寺)に大日尊を移動させたのだといいます。となると、そのお堂の位置からは草場山の西側稜線がしっかりと見えなければなりません。この場所はほぼ真北向きでまだ草場山の西側稜線方向は開けていません。よって畑の跡地あるいは諸堂が建っていたかもしれないこの場所から、左手後方(南東)へ進んだ場所が該当することになります。さっそくその方向へ登って行くと、ゆるやかな稜線の頂上が現れました。ここまで登ると木立の間から東西へ走る中国道が見下ろせ、ほぼ正面に草場山が見えます。周囲を調べると遺構らしき石積みの跡があり、写真の様な平らな場所が何カ所かありました。ここなら光明寺の方角へ一筋の光明が放たれた時に、大日尊が鎮座していたお堂が建っていた場所として少しも不自然ではありません。いやむしろ見事に伝承と合致します。

大日ケ浴の真言古跡.jpg

今となっては確かな証拠を発見することは無理でしょう。だからこの場所に大日尊のお堂が建っていたことはたぶん証明出来ません。しかし、つじつまは見事に合っています。そもそもこの手の検証作業というのはある意味とても壮大なロマンですから、ここまで来れたら充分でしょう。村田さんはこの場所も一人で見つけられていたのです。すごいですよね。おそれいりました。映画インディ・ジョーンズの主人公(ハリソン・フォード主演)みたいなおじさんです。

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