こだわり住職のよもやま話

ギター少年の求不得苦

2009年12月16日

前回書いた通り、ギター少年(私)の技術的なピークは「風」からリリースされた「22才の別れ」がヒットし、そのリードギターにチャレンジしていた頃です。「22才の別れ」がリリースされたのは調べてみると1975年の春です。75年は高校生になった年で、いわば一番真剣にギター修行に励んだ時代です。少年は「風」バージョンの「22才の別れ」を完全コピーする為に、またいつもの「耳コピー」で挑戦することになりました。

レコードをカセットテープに録音して何十回何百回と繰り返し聴きました。予備も複数必要でした。執拗に巻き戻し再生を繰り返すので、テープが伸びて音程が狂ってくるからです。リードギターは伊勢さんが弾くメロディーを耳で覚えてギターのポジションを探し、再現しながらコピー譜面を作って行きます。スリーフィンガー演奏のコピーは、同時に多数の音が鳴っているので一段と困難な作業でした。現在であればパソコンを使って効率的な作業が出来ますが、当時の少年にとって頼りは自分の耳だけです。それでも少年は「絶対完全コピーしてやる」と燃えていたのです。しかし少年の意気込みとは裏腹に作業はやがて停滞しました。

その原因は高校入学時になんとなく「背が伸びるかも?」と選んだバスケット部でした。ウエスト85㌢の今の体型からはとても想像できないのですが、子供のころは常に野山で遊んでいた野生児です。真っ黒に日焼けして、むしろ痩せていました。小学校まではおチビさんでしたが、中学に入ると徐々に人並みに追いつき、3年の頃には自分でもほれぼれする大腿筋でした。高校入学の時に制服のズボンをウエストに合わせると、太ももの部分がきつくて困ったものです。しかしそれはいわば「えせスポーツマン体型」でした。

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私が学んだ中学校は田舎の学校ですから、陸上部なんてものはありません。しかし毎年夏休みに入ると、秋に行われる市内全校での体育祭(県の大会の予選会を兼ねる)にそなえて臨時の陸上部が編成されます。私も三年のときにはメンバーでした。一応得意の種目は100㍍と走り幅跳びです。そしてその大会の走り幅跳びで勝ってしまい、市の代表として県の大会に出場しました。だから当時の田舎中学生としては、まあまあではありました。ただし短距離得意の身体を支えるもの、すなち瞬発力に優れる筋肉というものは持久力がありません。非常に疲れやすい筋肉です。乳酸が蓄積しやすく、いったんそうなると回復に時間がかかる性質が顕著です。短距離系で体が硬い人は特にこの傾向があります。ですから運動会のリレーではスターでしたが、マラソン大会ではまったくみじめなものです。結局差し引きゼロです。

さて、そういう体質でバスケットをやるとどうなるのか?経験者ならわかると思いますが、バスケはメチャメチャハードな競技で死ぬほど疲れます。プレー中はダッシュの連続で休む間がありません。1年坊主は毎日毎日先輩から厳しいトレーニングを課せられました。帰ったらバタンキューです。全身が筋肉痛でギターを弾く元気もありません。休日もバスケの練習があります。ギターを思いっきりやれなくて、悶々とした日々(仏教で言う求不得苦の状態)がむなしく過ぎて行きました。

そこで少年は少年なりに、この事態を打開するべくある秘策を練りました。その作戦とはクラブをやめることです。私の通った高校は、最低でも1年坊主の間は何かのクラブ活動に所属することになっていました。しかしそれは原則であって、諸般の事情により例外を認めることもあります。ただし、担任や親が認めてくれそうな理由が必要です。少年はこのとき素晴らしいアイデアが浮かび、実際その作戦は成功しました。理由は「疲れて勉強ができないのでやめさせて」です。笑わないで下さい。こういう理由が嘘なのは誰でもずぐ解るわけですが、そこをあくまでも真剣な顔をして、思い詰めた表情で訴えなければなりません。さらにそのウソ八百を正当化する材料を確保する行動を、少年は密かに実行していました。高校では学期ごとに中間テストと期末テストがあります。そこで、たて続けに成績を意図的に落として行くのです。成績を上げるのは難しいですが下げるのは簡単です。するとさすがに放任主義の両親も「どうしたのか?」と言ってきます。そこで例の「クラブで疲れて...」と、まず親をだまします。次に難敵の担任です。生徒の言う「成績が落ちるのはクラブのせいで」なんて理由を、はなっから信じるわけありませんわ。そこで「試しにしばらく休ませて欲しい、絶対成績があがるはずだから」と交渉するのです。自分ではなく母親に言わせるのです。こういう手の込んだ手口で退部のチャンスを得た私は、「今しかない」とめちゃくちゃ一生懸命勉強したのです。当然成績はドカーンと上がります。テストで満点を取ったのは後にも先にもこのときだけです。晴れてバスケット部を円満退部になった私の喜び様は、みなさんご想像の通りです。ギター三昧の日々に突入です。少年は再びギター修行に没頭し、演奏テクニックは急激に上達して行きました。しかし、ふたたび求不得苦にさいなまれるとは、その時は想像もしていなかったのです。(続きは次回で)

三昧は仏教用語です。心を静めて一つの対象に集中し心を散らさぬ状態、あるいはその状態に至る修行・修練のことである。 

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